日本応用数理学会 2016年研究部会連合発表会

日本応用数理学会 2016年研究部会連合発表会

  • 日程:2016年3月4日 (金) 〜 3月5日 (土)
  • 会場:神戸学院大学ポートアイランドキャンパス
  • 住所:〒650-8586 兵庫県神戸市中央区港島1-1-3
  • 連合発表会全体のページ:http://union2016.jsiam.org

プログラム(研究部会関連部分のみ)
3月4日 (金) 会場:B213

セッション1:線形方程式(13:50 – 14:50) 座長:今倉 暁(筑波大学)
※ 他のセッションよりも20分遅れての開始となります.ご注意下さい.

  • 講演1(13:50 – 14:10)
    Inner-iteration Preconditioning of Normal Equations in an Interior-point Method for LP
    ○Yiran Cui (University College London), 保國惠一(筑波大学), 土谷 隆(政策研究大学院大学), 速水 謙(国立情報学研究所)

    Abstract: We apply inner-iteration preconditioners to Krylov subspace methods for the normal equations given in an interior-point algorithm for solving linear programming. The inner-iteration preconditioners cope with severely ill-conditioned linear equations in the final phase of the interior-point iterations. The advantage of our methods is that it does not break down even when previous direct methods do. Finally, numerical experiments show that AB-GMRES method is the most robust compared to the other iterative methods tested.

  • 講演2(14:10 – 14:30)
    半正定値系に対するEisenstat SSORによる右前処理MINRES法と,特異系への右前処理MINRES法の収束性
    ○杉原光太(総合研究大学院大学),速水 謙(国立情報学研究所,総合研究大学院大学),Ning Zheng (総合研究大学院大学)

    概要:疎で対称半正定値系の解法として,右辺が行列の値域に入らない際も最小二乗解に収束するMINRES法を採用する.MINRES法を特異系に適用した際,問題の等価性を保ちやすい右前処理を用い,定式化する.本発表では特異系への収束性を理論解析する.またEisenstat’s trickをSSOR右前処理に適用し たMINRES法ならびにそのリスタートを提案し,電磁場解析といった実問題にも数値実験により有効性を検証する.

  • 講演3(14:30 – 14:50)
    短い漸化式を用いるKrylov部分空間法の収束安定化について
    ○相原 研輔(東京理科大学)

    概要:近似解や残差を短い漸化式によって更新するKrylov部分空間法では,行列ベクトル積から発生する丸め誤差の影響により,収束速度の低下や近似解精度の劣化が起きる場合がある.本講演では,双共役残差法などで用いられる漸化式に着目し,丸め誤差の収束性への影響を解析する.そして,丸め誤差の影響を抑えるため,いくつかの補助ベクトルをグループ化しながら更新を行う方法を提案する.数値実験を通して,提案手法の有効性を示す.


セッション2:ライブラリ・HPC(15:00 – 16:20) 座長:宮島 信也(岐阜大学)

  • 講演4(15:00 – 15:20)
    Block communication avoiding Householder tridiagonalization実装上の問題点について
    ○今村俊幸(理化学研究所)

    概要:通信回避の考え方に基づくハウスホルダー三重対角化アルゴリズムを自然な形でブロック化するときに考慮しなくてはならない実装上の問題点について、並列性能と精度などの観点から提議しつつ議論する。

  • 講演5(15:20 – 15:40)
    CPU/GPU混在環境における再帰的タイルQR分解の動的スケジューリング実装
    ○高柳雅俊(山梨大学),鈴木智博(山梨大学)

    概要:CPU/GPU 混在環境におけるタイルQR分解において、CPU では小さいタイルサイズ、GPU では大きいタイルサイズでの処理が適している。CPU と GPU で異なるサイズのタイルを割り当てる再帰的タイルQR分解を実装し,タスクの動的スケジューリングのために OpenMP 4.0 の task 節を使用して実装を行った。発表では、実装方法や実験による性能評価について報告する。

  • 講演6(15:40 – 16:00)
    エネルギー保存数値解法の大規模物質計算への展開
    ○井町宏人(鳥取大), 宮武勇登(名古屋大), 星健夫(鳥取大)

    概要:大規模量子物質計算(有機デバイス物質系での電子波ダイナミクスなど) への展開を目指して、エネルギー保存数値解法のコード作成と性能評価を行った。原子構造に由来する非線形行列方程式を目的とし、時間発展には大規模線形ソルバーを必要とする。宮武らの新しいエネルギー保存解法を中心として、陽的Runge-Kutta法、シンプレクティック解法、従来型エネルギー保存解法も実装したミニアプリを作成し、精度・計算時間を比較した。展望として、疎行列型線形ソルバーの利用などがあげられる。

  • 講演7(16:00 – 16:20)
    ELSES matrix library:新しい疎行列ライブラリと物質科学実問題
    ○星健夫(鳥取大)、井町宏人(鳥取大)

    概要:大規模量子物質シミュレーションの出力データにより、新しい疎行列ライブラリELSES matrix libraryが近年公開された(http://www.elses.jp/matrix/)。こうしたデータはこれまで数種の疎行列ソルバー研究に使われてきた。一般公開することで、物質科学と数理科学の共同研究拠点に発展することを期待する。講演ではライブラリの概要と、データ科学的視点からの新しい需要(固有値問題におけるParticipation Ratio計算)を述べる。


セッション3:行列方程式・行列関数・テンソル(16:30 – 17:50) 座長:中務 佑治(東京大学)

  • 講演8(16:30 – 16:50)
    Fast verified computation for solutions of nonsymmetric algebraic Riccati equations arising in transport theory
    ○宮島信也(岐阜大学)

    Abstract: A fast algorithm for enclosing the solution of the nonsymmetric algebraic Riccati equation arising in transport theory is proposed. The enclosing process involves only square complexity under a reasonable assumption.

  • 講演9(16:50 – 17:10)
    行列指数関数のためのInexact Shift-invert Arnoldi法
    ○橋本悠香(慶應義塾大学理工学部4年),野寺隆(慶應義塾大学理工学部)

    概要:行列指数関数の計算は線形発展方程式の初期値境界値問題の数値解を求める上で重要である.通常,このような問題は大規模になるので,Krylov部分空間法を利用することが多い.Moretら[BIT vol. 44, pp. 595-615, 2004] によって提案されたShift-invert Arnoldi法を利用すれば,反復回数をある程度減少させることができる.しかし,この方法では,1回の反復に必要な計算コストが大きいため,かなりの計算時間を必要とする.そこで,本発表ではShift-invert Arnoldi法の毎回の反復に必要な計算コストを減少させる新しい算法を提案する.

  • 講演10(17:10 – 17:30)
    Exponential integrator に現われる行列関数の計算法
    ○中村真輔(秋田県立大学),小澤一文(秋田県立大学),廣田千明(秋田県立大学)

    概要:近年,常微分方程式のための数値解法として,行列関数とベクトルの積を含む exponential integrator と呼ばれる離散変数法のクラスについての研究が盛んである.ここでいう関数とは指数関数を含むφ関数と呼ばれるものを指す.そのため,これらの行列関数の計算法についても様々な手法が提案されているが,特に scaling and squaring method が最も広く用いられている.しかし,scaling and squaring method は丸め誤差が大きくなる場合がある.また,特にスカラの場合では,指数関数の計算において squaring の精度の改善手順が知られている.そこで,この改善手順を行列指数関数およびφ関数に拡張する方法について提案する.

  • 講演11(17:30 – 17:50)
    重調和作用素の陽的なQTT分解とその応用
    ○中村 健吾(東京大学工学部),松尾 宇泰(東京大学)

    概要:高次元もしくは非常に要素数の多いテンソルを少ない数のパラメータで分解・近似する手法として,Quantized Tensor Train (QTT) が近年よく用いられている.本講演では,高次元空間中の重調和作用素の等間隔離散化行列の正確なQTT分解を陽な形で与え,さらにその偏微分方程式の数値計算への応用について述べる.


3月5日 (土) 会場:B213

セッション4:特異値(09:40 – 11:00) 座長:岩崎 雅史(京都府立大学)

  • 講演12(09:40 – 10:00)
    シュティーフェル多様体上のニュートン法に基づく近接特異値をもつ行列に対する特異値分解アルゴリズム
    ○佐藤寛之(東京理科大学),相原研輔(東京理科大学)

    概要:特異値分解は2つのシュティーフェル多様体の積多様体上のある最適化問題を解くことと等価であることが知られており,この最適化問題に対する多様体上のニュートン法は2次収束性をもつ.本講演では,ニュートン法の各反復で現れるニュートン方程式の効率的な解法を紹介し,このアルゴリズムが,近接特異値をもつ行列に対してもその特異値および特異ベクトルを精度よく計算できることを数値的に検証する.

  • 講演13(10:00 – 10:20)
    dqds法およびmdLVs法の新しい実装法について
    ○木村欣司(京大情報), 中村佳正(京大情報)

    概要:2重対角行列の特異値を計算する方法にdqds法およびmdLVs法があり,ともに相対誤差の意味で高精度な特異値が計算できることが証明されている. さらに, dqds法は, dlasq*としてLAPACKに実装されている. しかし, dlasq*は,行列式の考察からフルランクと確定している70000 次元および150000次元の一様乱数行列に対して最小特異値として0を出力し, 実装上は相対誤差の意味での高精度性を達成できていない. 本講演ではこの問題点を克服する実装法を提案し,dqds 法とmdLVs法の比較検討を行う.

  • 講演14(10:20 – 10:40)
    クラスタ行列に対する直交QD法の特異値分解精度を改善する停止条件について
    ○荒木翔(京都大学), 木村欣司(京都大学), 中村佳正(京都大学)

    概要:2重対角行列に対する直交QD法は多くの行列に対しDemmel-Kahan QR法よりも高い特異値分解精度を示すが,従来の停止条件では特異値が単独のクラスタをなす行列の分解精度においてQR法に劣 るケースが存在した.本講演では,逆行列の1-ノルムおよび∞-ノルムを利用する新たな停止条件のもとで,クラスタ行列に対する直交QD法 の特異値分解の精度が改善することを数値実験で示し,この停止条件の理論的な背景を説明する.

  • 講演15(10:40 – 11:00)
    Thick-Restart GKL法の新しいリスタートの方法について
    ○石田遊也(京大情報),木村欣司(京大情報),中村佳正(京大情報)

    概要:本講演ではThick-Restart Golub-Kahan-Lanczos(GKL)法における新しいリスタートの方法を提案する。従来法として左右の特異ベクトルを用いてRestartを行う方法が提案されているが、ここでは片側のみの特異ベクトルを用いてリスタートを行う方法を提案する。提案法においては小行列を解くための下位ルーチンは限定されない。そこで本講演では、下位ルーチンにQR法とOne-sided Jacobi法を選択した場合の結果を報告する。


セッション5:特異値・最小自乗問題・固有値(11:10 – 12:50) 座長:中村 真輔(秋田県立大学)

  • 講演16(11:10 – 11:30)
    dLVアルゴリズムに対する陽的な原点シフト導入について
    ○岩崎 雅史(京都府立大学生命環境学部),中村 佳正(京都大学大学院情報学研究科)

    概要:上2重対角行列の特異値を求めるためのdLVアルゴリズムに対して、その収束加速のための原点シフトが導入されたmdLVsアルゴリズムがある。本講演では、dLVアルゴリズム特有の任意パラメータを活かして、mdLVsアルゴリズムとは異なる陽的な原点シフト付きアルゴリズムdLVsを提案する。

  • 講演17(11:30 – 11:50)
    On Iterative Solution of Box Constrained Least Squares Problems
    ○Ning Zheng(SOKENDAI),Ken Hayami(NII, SOKENDAI),Jun-Feng Yin(Tongji University)

    Abstract: For the solution of large sparse box constrained least squares (BLS) problems, a new iterative method is proposed by using generalized SOR method for the inner iterations and the modulus iterative method in the outer iterations for the solution of linear complementarity problem resulting from Karush-Kuhn-Tucker (KKT) conditions of the BLS problem. Theoretical convergence analysis including the optimal choice of the parameter matrix is presented for the proposed method. Numerical experiments show the efficiency of the proposed method compared to projected gradient method with less iteration steps and CPU time.

  • 講演18(11:50 – 12:10)
    2つのKrylov部分空間を利用した複素モーメント型固有値解法
    ○今倉暁、櫻井鉄也(筑波大学)

    概要:本講演では内部固有値問題に対する複素モーメント型固有値解法に着目する.近年,我々は複素モーメント型固有値解法で用いられる部分空間がKrylov部分空間として解釈できる点に着目し,CA-Arnoldi法に基づく複素モーメント型固有値解法(block SS-CAA法)を提案した.本講演では,多項式フィルター型内部固有値解法に対するLanczos法に基づく改良法のアイディアを,block SS-CAA法の外部反復に導入することで,2つのKrylov部分空間を利用した複素モーメント型固有値解法を提案する.

  • 講演19(12:10 – 12:30)
    非線形固有値問題の固有ベクトル摂動論と誤差評価
    ○中務佑治(東京大学)、Francoise Tisseur(マンチェスター大学)

    概要:行列固有値問題への固有ベクトル摂動論は有名なDavis-Kahan’s sinθ, tanθ定理を始め、Stewartの定理など、古典的な結果が知られており、例えば計算された固有ベクトルの事後誤差を得るのに使える.本発表では多項式固有値問題や有理固有値問題などに対して同様の定理を導く.

  • 講演20(12:30 – 12:50)
    対称固有値問題に対するレゾルベントを1つだけ用いたフィルタ対角化法について
    ○村上弘(首都大学東京)

    概要:係数が実対称およびエルミートの場合の対称一般固有値問題で、固有値が指定された区間にある固有対をフィルタ対角化法を用いて解く際に、記憶量と計算量の制約が特に強い場合を想定して、レゾルベントが1つだけで構成されたフィルタを、なるべく簡単で利用し易いように設計して用いる。フィルタ対角化法を便利に用いる上で考察すべき点としては、フィルタで濾過するベクトルの個数の選択方法あるいは指定された固有値の区間の分割と結果の併合、得られた近似固有対の誤差の評価方法、近似固有対の改良の方法などが挙げられる。