日本応用数理学会 2017年度年会 3部会連携OS

日本応用数理学会 2017年度年会 3部会連携OS

 

日本応用数理学会「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会では,日本応用数理学会2017年度年会におきましてオーガナイズドセッションを開催致します.本OSは「科学技術計算と数値解析」研究部会,「計算の品質」研究部会と当部会の3部会連携により開催されます.


プログラム

 

9月7日 (木) 会場:D

 

セッション1:行列・固有値問題の解法とその応用(1) (11:00 – 12:20) 座長:保國 惠一(筑波大学)

  • 講演1(11:00 – 11:20)
    少数のレゾルベントにより構成されたフィルタによる実対称定値一般固有値問題の解法の実験
    ○村上 弘 (首都大学東京)

    フィルタ対角化法で実対称定値一般固有値問題の固有値が指定された区間にある対を解く.フィルタには少数のレゾルベントの線形結合の実部の作用の多項式を用いる.設計の簡易さから多項式にはチェビシェフ多項式を用いる.少数とは2~3個あるいは4個程度である.レゾルベントの作用はシフト行列を係数とする連立一次方程式を解いて実現するが,それを行列分解で解くのなら必要な分解の数は少数になる.実際に構成したフィルタを用いて固有対を求めた実験例を紹介する.
  • 講演2(11:20 – 11:40)
    幾何学的最適化に基づく離散時間線形システム同定アルゴリズム
    ○佐藤 寛之 (東京理科大学), 佐藤 一宏 (北見工業大学)

    制御対象の動特性を表すモデルの入出力データに基づく構築法をシステム同定という.本講演では離散時間多入力多出力システムの同定問題を行列空間上で定式化することで,既存法よりも効率的な計算法を提案する.さらに,互いに入出力等価なシステムを定めるパラメータ間に同値関係を導入することで,より次元の小さいリーマン商多様体を構成し,この多様体上の最適化に基づくアルゴリズムによりさらなる効率化が達成されることを実証する.
  • 講演3(11:40 – 12:00)
    重複固有値を指定する逆固有値問題に対する二次収束解法について
    ○相島 健助 (東京大学)

    逆固有値問題とは,指定した固有値と何らかの構造を有する行列を生成する問題である.指定する固有値を重複固有値とする問題は,近年重要視されている低ランク行列補完を含む枠組みにもなっており数値解法の研究も盛んである.本発表では,最近講演者が提案した単純固有値に対する二次収束解法を重複固有値にも対応できるよう改良したアルゴリズムを示す.
  • 講演4(12:00 – 12:20)
    対称特異系に対する右前処理MINRES法とMR-2法の収束性
    ○杉原 光太 (国立情報学研究所), 速水 謙 (国立情報学研究所 総合研究大学院大学), Ning Zheng (国立情報学研究所)

    疎で対称特異系の解法として,MINRES法と,MINRES法における Krylov部分空間を係数行列の値域に制限したMR-2も採用する. 本講演では特異系に対する右前処理MR-2の収束性を理論解析する. さらに半正定値系に対し, Eisenstat’s trickをSSOR右前処理に適用した前処理ならびに,自動リスタートを 提案し、提案手法を適用したMINRES法とMR-2法の性能を数値実験により比較検証する.

セッション2:行列・固有値問題の解法とその応用(2) (13:30 – 14:50) 座長:速水 謙(国立情報学研究所)

  • 講演5(13:30 – 13:50)
    行列指数関数のためのDouble-shift-invert Arnoldi法
    ○橋本 悠香 (慶應義塾大学理工学研究科・理研AIP), 野寺 隆 (慶應義塾大学理工学部)

    大規模行列指数関数とベクトルの積を計算するためには,Krylov部分空間法による近似が有効である.既存の方法として,Shift-invert Arnoldi法やRational Krylov法がある.これらの方法は,各反復において1つのシフト用いて行列を変形させる.これにより行列の性質が改善し,反復回数が減少する.本発表では,各反復において2つのシフトを用いることで,さらなる行列の性質改善を図り反復回数を減少させる方法を提案する.
  • 講演6(13:50 – 14:10)
    Arnoldi法を利用した非線形固有値問題とその改善
    ○長坂 英明 (慶應義塾大学理工学研究科基礎理工学専攻), 野寺 隆 (慶應義塾大学理工学部)

    非線形固有値問題の解法の1つとしてArnoldi法があるが,Arnoldi法には有限Arnoldi法とそれを発展させた無限Arnoldi法がある.本発表は無限Arnoldi法のリスタートを考え,収束の改善をする算法について考える.通常Arnoldi法ではヘッセンベルグ行列をシュール分解してリスタートを行うのだが,我々はヘッセンベルグ行列を対角行列に変形し,リスタートを行う手法を提案する.詳細な数値実験を行い,既存手法と比較し,提案手法の有効性について述べる.
  • 講演7(14:10 – 14:30)
    非エルミート行列の複素固有値分布の数値計算アルゴリズム
    ○羽田野 直道 (東大生研)

    非エルミート行列の複素固有値分布の数値計算アルゴリズムを2つ紹介します。ただし、いずれも欠点があり、問題提起としての紹介となります。一つは、非エルミート行列の倍の次元のエルミート行列の実数固有値分布を、非エルミート行列の複素固有値分布に変換するアルゴリズムです。もう一つは非エルミート行列の「擬スペクトル」を計算するもので、上と同様に作ったエルミート行列の逆行列の最大固有値を非エルミート行列のノルムとして計算します。前者は計算時間とメモリー量に問題があり、後者は直接、分布を計算するものではないという欠点があります。
  • 講演8(14:30 – 14:50)
    心筋の迅速な弛緩の仕組みと固有値問題について
    ○鷲尾 巧 (東京大学), 久田 俊明 (東京大学)

    心臓は周期的に収縮と弛緩を繰り返し, 血圧差に打ち勝って肺から大動脈に血液を送り込む高性能ポンプである. そのエネルギー効率や拍出性能に関しては, 迅速な心筋の弛緩が大きく寄与していることがわかってきた. この迅速な弛緩は単独分子の動的特性のみからは見えてこず, 分子の個々の揺らぎと集団的な協同性の両方を考慮して初めてシミュレーションで再現可能となった. 筆者らは, ミクロな分子の集団運動とマクロな心筋の収縮伸長運動のカップリングが本質的に行列のrank-one updateとして解釈できることを見出し, rank-one updateされた行列の特殊な固有値および固有ベクトルから弛緩の数理を理論的に明らかにすることを試みている. ここでは, この取り組みと今後の課題について述べる.