日本応用数理学会 2019年度年会 3部会連携OS

日本応用数理学会「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会では,日本応用数理学会2019年度年会におきましてオーガナイズドセッションを開催致します.本OSは「科学技術計算と数値解析」研究部会,「計算の品質」研究部会と当部会の3部会連携により開催されます.

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暫定プログラム

9月5日 (木) 会場:D (K214)
セッション2:行列・固有値問題の解法とその応用(1) (10:30 – 11:50) 座長:深谷 猛(北海道大学)
シフト付きLR変換を与えるdLVs反復の収束性について
○植田 旭 (京都大学), 岩崎 雅史 (京都府立大学), 中村 佳正 (京都大学)
数理生物分野で有名なロトカ・ボルテラ (LV: Lotka-Volterra)系の時間離散版に基づいて、 対称3重対角行列のLR変換を与えるdLV (discrete LV)反復が定式化されている。 dLV反復に対して原点シフトが導入されたdLVs (dLV with shift)反復も報告されているが、 その収束性については議論されていない。 本講演では、適切な補助変数を介してdLVs反復が有する有界性と単調性を見い出し、 dLVs反復の固有値への収束性について明らかにする。
◎離散相対論的戸田方程式が与えるシフト付きLR変換について
○簑下 尚也 (京都府立大学), 岩崎 雅史 (京都府立大学), 山本 有作 (電気通信大学)
可積分系方程式が行列の固有値問題と関連付けられた研究は少なくな いが、離散相対論的戸田方程式についてはこれまで議論が進められていない。本講演では、帯行 列のシフト付きLR変換を与える漸化式の1つが、離散相対論的戸田方程式であることを示す。離 散相対論的戸田方程式と帯行列のシフト付LR変換を結び付ける際に、パラメータを導入して非自 励化したLaurent双直交多項式がポイントとなる。数値例を通じて、帯行列の固有値が求められ ることも併せて報告する。
一般内積における直交化のためのMGS-HP法の誤差解析
○山本 有作 (電気通信大学), 今倉 暁 (筑波大学)
対称正定値行列Aにより定められる内積の下での直交化は,一般固有値問題をはじめ様々な応用で現れる。修正グラム・シュミット(MGS)法を使う場合,従来はAとベクトルとの積が2n回(n:ベクトルの本数)必要とされてきたが,近年,今倉により,行列ベクトル積をn回に削減でき,かつ,これらをまとめて1回の行列行列積として計算できるMGS-HP法が提案された。本講演ではMGS-HP法に対する誤差解析の結果を報告する。
◎未知の行列とその複素共役転置を同時に含むSylvester方程式について
○佐竹 祐樹 (名古屋大学), 曽我部 知広 (名古屋大学), 剱持 智哉 (名古屋大学), 張 紹良 (名古屋大学)
T-congruence Sylvester方程式は,未知の行列とその転置を含む行列方程式であり,ベクトル化により,テンソル積構造を係数行列にもつ連立1次方程式に帰着される.近年,この連立1次方程式に適切な線形作用素を施してから行列化を行うことでLyapunov方程式や一般化Sylvester方程式(いずれも未知の行列の転置を含まない)に変換できることが示されてきた.本講演では,T-congruence Sylvester方程式の拡張である*-congruence Sylvester方程式(未知の行列とその複素共役転置を含む)に対して,同様の理論を適用する際の問題点と解決策を示し,*-congruence Sylvester方程式が一般化Sylvester方程式に変換できることを示す.
セッション3:行列・固有値問題の解法とその応用(2) (13:30 – 14:50) 座長:相原 研輔(東京都市大学)
◎ブロック積型反復解法の近似解精度劣化の原因解析と高精度化
○倉本 亮世 (筑波大学 システム情報工学研究科), 多田野 寛人 (筑波大学 計算科学研究センター)
複数右辺ベクトルを持つ線形方程式の反復解法として,ブロック積型反復解法がある.ブロック積型反復解法は同問題を効率的に解くことができる一方で,右辺数の増加によって近似解精度が劣化することがある.漸化式で計算する残差行列と真の残差行列の間に乖離が発生することが,精度劣化の主要因である.本発表では,ブロック積型反復解法において乖離が発生する原因について解析を行い,近似解精度向上法の提案を行う.
特異対称系でのGMRES法とRRGMRES法の数値検証と、RRGMRES(m)法の収束定理
○杉原 光太 (国立情報学研究所), 速水 謙 (国立情報学研究所 総合研究大学院大学)
特異対称系において、右辺が係数行列の値域に属さない場合はMINRES法を適用するのが丸目誤差が無い場合は望ましい。しかし、丸目誤差のある計算では,GMRES法や Range Restricted GMRES(RRGMRES)法などを用いる方が収束性がよい。本発表では両手法を数値実験により比較し、 手法選択の指標を与える。また、特異系に対する収束判定において注意すべき事を述べる。さらに、RRGMRES法においてリスタート計算を行うRRGMRES(m)法を特異対称系に適用した場合の収束定理を示す。
空間座標の2次までの多項式を用いたdeflated CG法の性能検討
○高谷 周平 (個人)
近年注目を集めているdeflated CG法ではdeflation subspaceの選択が重要である. 本講演では, 偏微分方程式の近似解法でよく用いられるsubdomain deflation法をオープンソースの構造解析ソフトFrontISTRに実装し, 各subdomainに係数行列の零空間, 定数関数, 座標の1次及び2次の関数を割り当てて得られる計5種のdeflation subspaceの比較検討を行う.
融合積和演算を利用した特異値分解のための両側ヤコビ法の実装について
○荒木 翔 (京都大学), 高田 雅美 (奈良女子大学), 木村 欣司 (福井大学), 中村 佳正 (京都大学)
特異値分解のためのヤコビ法は, すべての特異値と特異ベクトルを高い精度で計算することができる. ヤコビ法には, 片側および両側ヤコビ法が提案されており,このうち片側ヤコビ法は, LAPACK に既に実装されている. 一方で両面ヤコビ法の実装には, 改善できる部分がいまだ多く残されている. 本講演では融合積和演算を利用した両側ヤコビ法の実装を示し,片側ヤコビ法との計算精度の違いについて述べる.
セッション4:行列・固有値問題の解法とその応用(3) (15:00 – 16:20) 座長:曽我部 知広(名古屋大学)
分子動力学における共有結合ポテンシャル剛性行列の不定値性について
○鷲尾 巧 (UT-Heart研究所/東京大学), 久田 俊明 (UT-Heart研究所)
分子動力学においては、共有結合ポテンシャルの大きな剛性が時間ステップ幅の制約となっている。そこで時間ステップ幅を大きくとるために共有結合長を拘束したり、剛性を陰的に考慮する準陰解法が考えられる。しかし、結合長が自然長よりも短い場合の剛性行列は動径に垂直な接線方向に負の固有値を有するのでその効果は限られる。ここでは、このような困難を克服する解法を考える。
◎粒子法を使用した電子状態計算
○廣野 史明 (法政大), 岩沢 美佐子 (法政大), 狩野 覚 (法政大), 善甫 康成 (法政大)
粒子法を使用して電子状態を計算する手法を開発している。量子的な波束を任意の位置に配置可能な粒子(計算点)を用いて記述する。またBohm形式を使用することで波束の動きに合わせ粒子を移動させることができる。粒子は解析対象に合わせて配置することで不要な計算を最小限にする。調和ポテンシャルの中での固有状態を使用して解析解との比較を行い精度に遜色がないことが分かった。講演では応用例についても述べる。
遅延ピボットと内部反復改良を用いた大規模疎行列の高精度直接法
○鈴木 厚 (大阪大学 サイバーメディアセンター)
半導体問題のドリフト拡散方程式の離散化で得られる大規模疎行列の条件数は非常に大きくなることが知られている. 疎行列の直接法では演算量を減らすオーダリングとLU分解の安定性を確保するピボット軸選択が重要である. nested-dissection オーダリングに対角軸選択を用い, 分解途中に表れる極端に小さな対角成分を分離する遅延ピボットを導入することで並列計算が可能かつ安定したアルゴリズムが得られる. 条件数が非常に大きい場合は4倍精度演算が必要となるが, 長い計算時間を要する. 遅延ピボットの発生前の部分に倍精度演算のLU分解に基づく反復改良を施し, 遅延ピボットからなる最後のSchur補行列に4倍精度演算によるLU分解を適用することで高速演算が可能になる.
動的モード分解のノイズ除去の効果に対する統計解析
○相島 健助 (法政大学)
多次元時系列データに対する有力な解析手法として動的モード分解が近年注目されている.データの特徴を捉え,ノイズの除去を行うことを目的に特異値分解が用いられるが,特異値分解の対象とするデータ行列の与え方はいくつか異なる方法がある.本発表では,ある種の行列の特異値分解を行う場合に着目し,統計解析により,サンプル数の増加に伴うノイズ除去の効果の定量的な評価を与え,動的モードへの収束を理論保証する.
セッション5:行列・固有値問題の解法とその応用(4) (16:30 – 17:30) 座長:中村 真輔(秋田県立大学)
◎行列実数乗の計算に対する数値積分法のための前処理について
○立岡 文理 (名古屋大学), 曽我部 知広 (名古屋大学), 剱持 智哉 (名古屋大学), 張 紹良 (名古屋大学)
数値積分法による行列実数乗A^αの計算を考える.これまでに,数値積分法の収束速度向上のための定数倍の前処理が考えられてきた.これは,正の実数pに対してA^α=p^(-α)(pA)^αが成り立つことを用いて,収束速度が向上するようなpを選ぶものである.本発表では正の実数の代わりに行列を用いた前処理を考える.すなわち,A^α=P^(-α)(PA)^αが成り立つ行列Pを用いて計算効率の向上を試みる.正定値対称なAに対してPの選び方を提案し,数値例を通して有用性を検証する.
Fast validation for the Perron pair of an irreducible nonnegative matrix
○Miyajima Shinya (Iwate University)
Fast algorithms are proposed for calculating error bounds for a numerically computed Perron root and vector of an irreducible nonnegative matrix. Particular emphasis is put on the computational efficiency of these algorithms which has only square complexity under an assumption. We introduce a technique for obtaining smaller error bounds. Numerical results show efficiency of the algorithms.
有理関数の合成による伝達関数の改良とそれに対応するフィルタの構成について
○村上 弘 (首都大学東京)
有理関数であるフィルタの伝達関数に対して,その遷移域の幅を狭める変換を行う有理関数を合成することにより,弁別の鋭さを増した伝達関数を表す有理関数が得られる.これまでその変換に用いる有理関数あるいは多項式として,電気回路の典型4種のうちでバターワース型,チェビシェフ型,逆チェビシェフ型と呼ぶ3種に倣ったものを採用して構成されるフィルタを具体的に示してきた.今回は残っていた楕円型を採用した構成を示す.