日本応用数理学会 2022年度年会

日本応用数理学会「行列・固有値問題の解法とその応用」研究部会では,日本応用数理学会2022年度年会におきましてオーガナイズドセッションを開催致します.
  • 会期:2022年9月8日(木)〜10日(土)
  • 会場:北海道大学⾼等教育推進機構
  • 住所:〒060-0817 北海道札幌市北区北17条西8丁目
  • 年会ホームページ:https://jsiam.org/annual2022/

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プログラム

9月8日 (木) 会場:C
行列・固有値問題の解法とその応用(1) (9:10 – 10:30) 座長:大島 聡史(名古屋大学)
◎ブロック構造に基づくフィルイン制御を用いたSIMD演算に適したILU分解前処理手法 / ○鈴木 謙吾(北海道大学), 深谷 猛(北海道大学), 岩下 武史(北海道大学)
Krylov部分空間法に対する一般的な前処理手法として、ILU(分解)前処理が広く知られている。ILU前処理の性能はILU分解におけるフィルインの制御手法に大きく左右される。一般に、フィルイン要素の増加は収束性の改善に繋がるが、計算時間を増加させる。本研究では、ブロック構造に基づくフィルイン制御手法を導入し、新しいILU前処理を提案する。本手法ではSIMD演算を効果的に利用し、フィルインによる計算時間の増加を抑制できる。従来のILU(0)前処理との性能比較を行い、提案手法の優位性を示した。
反復解法を組み合わせた大規模直接法LU分解と混合精度演算による高速化 / ○鈴木 厚(理化学研究所 計算科学研究センター)
有限要素法や有限体積法による離散化で得られる大規模疎行列からなる連立一次方程式の解法に前処理付きKrylov部分空間法を用いると効率的に解を求められることが多いが, 条件が非常に大き場合には直接法が必要になることも多い. 分解途中で生じるfill-inを最小化し, 演算密度を向上させ, 分解開始を並列に行なうための添字の並べ替を用い, 閾値付の軸選択を活用すると効率的な直接法アルゴリズムが得られるが, 高速化が要求されている. このオーダリング手法ではLU分解はSchur補行列の再帰的な構築からなるが, 最後に生成するSchur補行列の構成に前処理付のGCR反復法を用いることを考える. 前処理は単精度のLU分解から構成され, 対称軸選択により全体行列から分離された条件数が穏やかに留まる部分問題に適用する. 単精度演算を導入しているが, 大きな条件数に対するSchur補行列の分解は倍精度で行なうため全体としての解の精度は倍精度のものを得ることができ, 高速化が達成できる.
◎非対称シフト線形方程式のためのBiCGStab法に基づく数値解法 / ○趙 仁傑(名古屋大学), 曽我部 知広(名古屋大学), 剱持 智哉(名古屋大学), 張 紹良(名古屋大学)
シフトクリロフ部分空間法を用いてシフト線形方程式を解く時,シード方程式を選択する必要があるが,その選択が不適切になった場合は,まだ収束条件を満たさないシフト方程式が残る可能性がある.この問題を解決するために,シードの切り替え手法がすでに提案されているが,この手法では,すべてのシフト方程式の残差ベクトルに対して共線性が保持されることを必要とする.シフト線形方程式に対する既存の積型クリロフ部分空間法では,このような共線性を保持しないため,シードの切り替えが行えない.そこで本研究では,残差の共線性を保持するようにBiCGStab法を修正し,切り替え可能な数値解法を提案する.そして,数値実験により,修正解法の有効性を示す.
◎行列方程式に対する反復法のためのテンソル構造保存型前処理について / ○佐竹 祐樹(名古屋大学), 曽我部 知広(名古屋大学), 剱持 智哉(名古屋大学), 張 紹良(名古屋大学)
線形行列方程式は等価な連立1次方程式を用いることで多くの反復法を適用できる.このとき,連立1次方程式の係数行列は元の行列の二乗のサイズとなるが,この係数行列が持つテンソル構造を利用することで,元のサイズの行列のみを用いて効率的に計算できる.しかし,汎用的な前処理手法を適用した場合,係数行列のテンソル構造が崩れるという問題点がある.そこで本発表では,近似逆行列前処理を用いたテンソル構造保存型の前処理手法を提案する.また,数値例によってその有用性を検証する.
行列・固有値問題の解法とその応用(2) (10:50 – 12:10) 座長:相島 健助(法政大学)
◎Probabilistic Singular Value Decomposition: A Probabilistic Model on the Standard Simplex / ○河合 未夢(東京理科大学大学院工学研究科経営工学専攻), 佐藤 寛之(京都大学大学院情報学研究科), 塩濱 敬之(南山大学理工学部 )
Singular Value Decomposition (SVD)を確率モデルへ拡張したProbabilistic SVDについて議論する. あるデータ行列について, そのFrobeniusノルムによる正規化を行う. 正規化された行列の要素の二乗のスペクトル分解を行うことでProbabilistic SVDを導出する. 正規化された行列の要素の二乗の総和は1となり, Probabilistic SVDは単体上の確率モデルと同義であることを示す.
◎Riemann多様体上のHZ型共役勾配法の固有値問題への応用 / ○酒井 裕行(明治大学大学院), 佐藤 寛之(京都大学), 飯塚 秀明(明治大学)
正定値対称行列の固有値問題は、Rayleigh商と呼ばれる関数を単位球面上で最小化する連続最適化問題として扱うことができる。単位球面はRiemann多様体と呼ばれる幾何学構造を持ち、勾配を用いた最適化アルゴリズムが研究されている。本発表では、Riemann多様体の最適化問題を解くアルゴリズムとして、新たにHZ型の共役勾配法を提案する。その後、提案アルゴリズムの収束解析および、数値実験として行列の固有値問題への応用を行う。
p-ノルム球面上の最適化の理論と応用 / ○佐藤 寛之(京都大学)
本講演では,p-ノルムの意味で定義される単位超球面の幾何学と関連する最適化問題の解法を扱う.まず,種々のレトラクションなどの幾何学的道具について議論することで,この球面上の複数の最適化アルゴリズムを導出する.さらに,p の値を様々に設定することで,球面上の非負制約付き最適化問題や,Lp 正則化項付き最適化問題への応用が可能であることを示し,これらの問題についての数値実験結果を紹介する.
◎Design of Tight Minimum-Sidelobe Windows by Newton’s Method on Oblique Manifolds for Time-Frequency Domain Signal Processing / ○北原 大地(大阪大学), 矢田部 浩平(東京農工大学)
For the STFT-domain robust signal processing, we design tight windows that minimize the sidelobe energy by solving  constrained spectral concentration problems. We derive the exact Newton’s method on oblique manifolds to find a solution very quickly.
行列・固有値問題の解法とその応用(3) (13:20 – 14:40) 座長:廣田 悠輔(福井大学)
◎ランダム射影による大規模な線形安定システムの低次元化 / ○坂本 大樹(東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻), 佐藤 一宏(東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻)
大規模な線形システムの次元削減を行う上で,射影に基づく手法が有名である.既存手法では,Galerkin-type projectionを用いて低次元化モデルを得るが,制御理論への応用にあたっては,システムの安定性が保存されるとは限らないこと,射影の作成にかかる計算量が無視できないことが問題である.本講演では,近年,統計や機械学習分野で盛んに研究されているランダム射影を用いて,高速かつ安定性を保存する低次元化手法を提案する.
二重指数関数型数値積分公式を用いた行列符号関数の計算の改良および応用 / 宮下 朋也(電気通信大学), ○山本 有作(電気通信大学)
行列符号関数はシルベスター方程式や固有値問題などで使われる.最近,行列化符号関数を積分表示して二重指数型数値積分公式により数値計算を行う方法が中屋らにより提案されており,大粒度並列性を持つことから、並列計算機による高速化が期待される.本研究では,この方法について,変換関数や行列の固有値分布による誤差収束への影響を調べるとともに,新たな誤差上界を示す.また,スケーリングによる最適化,および行列平方根への応用についても示す.
線形一般固有値問題に対する非線形べき乗法の収束解析 / ○山本 有作(電気通信大学), 緒方 秀教(電気通信大学)
最近,緒方により,量子力学の固有値問題を積分方程式に直してIMT-DE型数値不定積分公式を用いて解く手法が提案された.本手法では,積分方程式を(A+λAV)x=λx(A, V: 対称行列)という形の一般固有値問題に変換し,非線形のべき乗法により固有値・固有ベクトルを求める.本発表では,この非線形べき乗法の大域的収束性を解析する.
固有値問題の一部少数の固有対の近似を一斉に求めるフィルタ解法について / ○村上 弘(東京都立大学)
固有値問題で固有値が指定区間にある少数の固有対の近似を一斉に求める.用いるフィルタは必要な固有ベクトルを良く通過させる作用素で,固有値問題のレゾルベントの単数または複数の線型結合の多項式とする.ランダムなベクトルの組にフィルタを適用して必要な固有ベクトルを含む割合を高めて,それから不変部分空間の近似基底を構成して必要な近似固有対を取り出す.フィルタの伝達率の非一様性から近似固有対の精度が不揃いになる傾向は,ベクトルの組の直交化をフィルタの処理の中に挟むと緩和できる.
行列・固有値問題の解法とその応用(4) (15:00 – 15:40) 座長:佐藤 寛之(京都大学)
制約付きの線形回帰モデルに対する推定量の一致性について / ○相島 健助(法政大学)
線形回帰モデルに対し,一部の説明変数が確率的な誤差を含み,かつ線型方程式による制約を含むものを考える.この回帰モデルに対応する最適化問題は,特異値分解を用いて数値的に安定に解くことができ,この計算手法により上記の回帰モデルに対するパラメータ推定を行うのが標準的である.本発表では,この推定量が,上記の回帰モデルに対する一致性をもつための理論的な条件を示し,漸近論の意味での収束定理を与える.
◎半緩和シンクホーンアルゴリズムにおける周辺条件誤差とOT距離誤差の収束解析 / ○福永 拓海(早稲田大学), 笠井 裕之(早稲田大学)
This paper presents a consideration of the Semi-Relaxed Sinkhorn (SR-Sinkhorn) algorithm for the semi-relaxed optimal transport (SROT) problem, which relaxes one marginal constraint of the standard OT problem. For evaluation of how the constraint relaxation affects the algorithm behavior and solution, it is vitally necessary to present the theoretical convergence analysis in terms not only of the functional value gap, but also of the marginal constraint gap as well as the OT distance gap. However, no existing work has addressed all analyses simultaneously. To this end, this paper presents a comprehensive convergence analysis for SR-Sinkhorn. After presenting the ϵ-approximation of the functional value gap based on a new proof strategy and exploiting this proof strategy, we give the upper bound of the marginal constraint gap. We also provide its convergence to the ϵ-approximation when two distributions are in the probability simplex. Furthermore, the convergence analysis of the OT distance gap to the ϵ-approximation is given as assisted by the obtained marginal constraint gap. The latter two theoretical results are the first results presented in the literature related to the SROT problem.